By Professor Ken with Tao and Madoka
illustration By LEE Fani
あの〜 韓国映画に出たいんですけど
この前『パラサイト』の製作費が13億5,000万円と言いましたよね?
それってウォンの間違いじゃないんですか?
円だとお金が掛かり過ぎだと思うんですけど、韓国映画ってそんなに製作費がかかるんですか?
私が韓国映画に出たら、凄いギャラもらえるって事ですか?
そういう事だね。『パラサイト』の製作費は確かに韓国通貨で135億Wだよ。
仮に『パラサイト』のシナリオを日本で映画化するとしたら、恐らく3億か4億円で製作を完了するというイメージだろう。
あれほどの美術セットを作って、あれほどの時間を掛けて、家族ドラマを作るという発想が日本にはないから。
まあ、その予算を掛けても許される巨匠がいないという意味でもあるな〜、さみしいけど。
何よりも韓国映画の製作費は日本映画より平均して高いんだ。スタッフやキャストのギャラも当然、日本よりは高いよ。特にメインスタッフだと倍くらい差があるかな。
えっ、そんなに!?
そもそも日本と韓国では映画製作のシステムが少し違うんだ。
日本映画は、君たちも聞いた事があると思うけど、製作委員会方式で大半の映画が製作されている。
例えばテレビ局が映画を企画した場合、まず大手配給会社の東宝や松竹に提案する。企画が通ったら、次に新聞社や出版社、広告代理店、地方テレビ局、そしてDVD販売会社に声を掛ける。
各社は総額の10%〜20%くらいの割合で参加して、5社から10社くらい集まって製作委員会を立ち上げるんだ。参加する企業は大体メディア関連企業だからそれぞれ役割分担がある。配給なら劇場配給の収入から20%〜30%の手数料を取るし、広告代理店なら宣伝広告費から手数料を取る。
そうやってみんなが各分野を担当して手数料を取るシステムだから、仮に映画の総予算が3億円で収入が2億5,000万円しかなかったとしても、各社はそれぞれ手数料を取った上だから本当に赤字かどうかは企業によって違ってくる訳だよ。
まあ、有名マンガを映画化すれば、人気俳優を使って、テレビで大量宣伝して全国300以上の劇場で公開すれば10億や15億円は稼ぐだろうという楽観的な予想が成り立つ。東宝配給だと大体は達成する数字だろうから。
業界では赤信号もみんなで手をつないで渡れば怖くない、ってよく言うんだ。
怖くないんですか….
違う意味で怖いけどね(笑)。
日本映画の場合は日本という1億3,000万人のマーケットに向けて、日本人が日本人の為に作るという点において、よくガラパゴス化していると言われるけど、それはある意味とても幸せな環境にあると思うよ、私は。
でも韓国って人口が日本より少ないのに製作費が高いんですか?
なるほどね〜、日本映画は多すぎるのか。
韓国映画の予算が高いもうひとつの理由は韓国映画が、決して国内の観客だけに向けて製作されている訳ではないという点がある。
韓国映画のジャンルは多岐に渡っているけど、例えばポン・ジュノ監督の新作ならヨーロッパでもアメリカでもかなり高い確率で公開されるだろうし、他にもグローバルな展開が見込める監督がたくさんいる。
ジャンルを度外視して監督名を挙げると、
パク・チャヌク、イ・チャンドン、キム・ジウン、ヨン・サンホ、リュ・スンワン、キム・ギドク、ホン・サンス、イム・サンス、カン・ジェギュ、ナ・ホンジン、ハン・ジェリム、チャン・ジュナン、チャン・フン、イ・ジュニク、チェ・ドンフン等々、彼らの映画ならかなりの確率でヒットするだろうし、海外でも公開される。
これは韓国映画がすでに国際的に認知されている証でもあるんだ。いまや韓国映画はひとつの輸出産業だから、良いシナリオと良い企画には大量の製作資金が集まる。
だから一般投資家のお金を扱う映画ファンドがたくさん存在する。
映画ファンドって?日本の映画製作委員会方式とは違うって事ですか?
映画ファンドは一般投資家のお金を管理する窓口だね。
韓国に映画ファンドがいくつあるかは不明だけれど、例えば最近Netflixで190カ国に同時配信された話題の『狩りの時間』というユン・ソンヒョン監督のサスペンスアクションを見るとKBインベストメント、韓国投資パートナー、IBK企業銀行、KCベンチャース、KTH、SBインベストメント等々、なんと13社の映画ファンドの名前が確認出来る。
ファンドマネージャーは映画をよく知る人物が就いていて、良いシナリオをいかに早く見つけて投資を決めるかを競っている。早く投資を決めれば投資を遅く決めたファンドよりも配当率が高いというメリットがあるんだ。
韓国映画界は非常に合理的かつ投機的な一面が定着している感がある。
因みに2019年のメジャー作品45本の配当率は105.8%だったという数字が発表されているね。こういった数字が年始に必ず公表されるという点も興味深い。
だから一般市民の関心が映画に集まる理由でもある訳だ。
なるほど〜じゃあ韓国の映画ファンは、早くに面白い脚本を見つけて、それに投資するっていう楽しみがあるワケですね。
でもこれは良いことだけじゃない。投機的な要素が強いという事は勝ち組と負け組の格差が大きいという事でもある。
実際、2017年に公開されたユ・スンワン監督の『軍艦島』は莫大な予算を掛けた期待作だったことから、全国の映画館2,600スクリーン中2,100スクリーンで公開されて、1日で100万人を動員したんだ。これはなんと全国の劇場の8割以上を独占してしまった訳だよ。
資本の論理が映画界で無制限に横行すると、小規模映画は公開の機会すらなくなってしまい映画の多様性が失われてしまう。
これ以降極端な独占はなくなったけど、製作、配給、興行を一手に束ねる企業はよほど高いビジネスリテラシーを持っていないといけない。
なるほど〜
勉強になるわ〜
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